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ILH代表黒部のブログ

2019年 あけましておめでとうございます

新年あけましておめでとうございます。

2019年がスタートする。今年はどんな年になるか、半分が運、半分は自分の努力次第というところだが、その「努力」について心に残る話を聞いた。年末に社員の結婚式があり、テキサス州ダラスに飛んだ。ケネディー元大統領が暗殺された街として世界中から観光客が来る。しかし広大で見渡す限りの平原の中にある街である。どこに行くにも車が必要になる。16歳以上の家族が4人いれば車は4台必要というのが常識で、なければウーバーかタクシー以外にない。招待された結婚式の会場はダラスのダウンタウンから車で40分ほどかかる郊外の住宅地、といえば聞こえはいいが英語ではこんな場所を"middle of nowhere"という。そんな僻地に行くにはタクシーしかない。聞けばメーター制だという。日本で40分タクシーに乗ったら軽く1万円はするがここも同じようなものである。腹をくくるしかない。私は海外でタクシーに乗るとドライバーと話すのが好きだ。特にアメリカの運転手たちは世界中から来ているので、アメリカの生活の大変さ、自国の問題、家族がいれば子育てのこと、将来の夢など現実的な話が聞けて面白い。今回もクリスマスが近かったので "Do you have a family?" から話が始まった。

フランチェスコはシチリア移民の息子で、本名はフランチェスコ17代というのだそうだ。そのフランチェスコが結婚し双子の男の子が生まれた。ところが1年後にまさかの双子が今度は女の子で誕生した。そしてまさかは1年半後にまた起こった。女の子が生まれた。3年の間に5人の子供が生まれてしまったのだった。しかし子供達が5歳になった時、母親は育児のストレスから家出をした。フランチェスコは妻を追いかける時間もないままシングルファーザーになった。昼間は家業の薬局で働き、夜は子供達のご飯を作り、土日はアルバイトに勤しんだ。カトリックでは簡単に離婚はできない。奥さんが行方不明でも本人の承諾なしでは離婚はできない。できなければ再婚はできない。当時のテキサスは非常に保守的で、妻に逃げられたのなら子供は父親が育てなさいという考えが普通であった。フランチェスコはがむしゃらに働き子育てをした。同時に躾もした。嘘をつかない、人に迷惑をかけない、人を助ける。簡単なことだがこれをしなかった時には、ズボンからベルトを外し遠慮なく子供達をひっぱたいた。今でもトイレに行くためにベルトに手をかけるだけで" Dad, please not!" というジョークが出るぐらい子供達には厳しい父親であった。そんなフランチェスコも子供達が大学に行く時は500ドル手渡し、「これは自活のスタート資金、学費は奨学金で足りない分はパパが送る。ただし生活費は自分で稼げ。」と言って5人を送り出した。3年間に5人を大学に送り出すには気の遠くなるような学費が必要になる。兄弟が多いので奨学金をもらえる確率は高いが、それでも5人分だ。フランチェスコも保険金殺人を考えたと冗談を言っていたが、冗談とも思えない現実がそこにはある。幸いにも子供達は幼い頃から父親が働く姿を目の当たりにしていたおかげで、4人は親の言いつけ通り地道な大学生活を送った。ただ一人次男だけは違った。ある日次男の部屋に入ったフランチェスコは「お前ドラッグやってるのか?」と聞いた。薬剤師の彼は匂いでそれとすぐわかる。次男は正直に麻薬をやっていることを認めた。それから2年間フランチェスコは次男を片時も離さずに店に置き寝食を共にした。外出も彼がドライブして出かけた。効果があって2年で次男は麻薬から抜け出すことができた。今は弁護士となっているが、2年間影のように息子に付き添うことの大変さは新生児の育児より大変だったというのだから苦労のほどがわかる。しかし続いた。双子の次女がハワイで同棲を始めた。ただどうも様子がおかしいと気づいたのは親の第六感だろうか。感はあたり娘が暴力を受けていることが発覚した。フランチェスコは自分の父親を同行して(父親は体が大きく嶮しい顔つきだという)ホノルルに飛んだ。無言で娘のボーイフレンドに向き合うと一発大パンチを食らわせた。娘は突然の出来事に泣きじゃくるばかりだったが手を掴み再度男に蹴りを入れてその場を去った。車で30分ほど走った後に自分のしたことの怖さにブルブル震えたと。今この娘は別の男性と結婚し、薬剤師となって幸せな家庭を作っている。

こんなスーパーパパを現実に演じてきたフランチェスコだが、娘たちの結婚式にはバケツいっぱい泣いたという。それぞれの娘の式は豪勢でたくさんのお客が招かれた。シングルファーザーの娘ということで自分を卑下してほしくないという親心だという。このレセプション費用は全てフランチェスコが賄った。娘が生まれたその日からせっせと貯金していたから可能だった。

フランチェスコは決して裕福ではないが、だからと言ってタクシーの運転手をしているわけでもないという。薬局にいると接する人間が限られているので、タクシーは世界中の人に出会う自由な時間だという。これは彼なりの解釈かもしれないが、ニューヨークでも同じような考えの女性ドライバーがいた。1ヶ月前までアマゾンでマネージャークラスの仕事をしていたが、一日パソコンと向き合っていると自分が世界から遠ざかるような気がしたという。

さて、フランチェスコの話の結末は6人の孫たちの話となるが、気がつくとダラスダウンタウンに到着していた。車から降りて初めて見えたフランチェスコの顔はちょっと疲れた天使のようだったが、一生懸命努力しながら生きてきた証なのだろうと思いいつもはそこまでしないタクシードライバーとのハグをした。

翌日がクリスマスイブ。なんだか素敵なお父さんの格好をした天使に会った気分になっていた。

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